今、人類にとって「最大の原点回帰」としての自由エネルギー原理

弊社は、自由エネルギー原理(以下FEPと表記)の存在を、脳と心の関係を統一的に説明する「最大の原点回帰」として捉えています。FEPは、命・心・知能の3つの大テーマを根源的に繋ぐ原理として、人間が人間について考えることをあらゆる面でアップデートすることができると弊社は捉えています。

<FEP×生命>

FEPの王道アプローチと呼ばれる議論では、生命が環境と調和して生き延びるために行わなければならない情報処理を数学的に導き出すことを目指します。「マルコフブランケット(Markov Blanket)」という統計的概念を用いて、生きているシステムが外界とどのように情報交換を行いながら自己を維持するのかを数学的に記述すると、その数式から、FEPの数理モデルが導かれることが別ています。こうして、環境の変化に適応して生きていくという生命現象自体がFEPに通じていることが分かります。
FEPを通して、生命とは何か?の原点に向かうことができるのです。

<FEP×心>

京都大学の乾敏郎名誉教授は、FEPを「脳の大統一理論」と呼び、「知覚,認知,運動機能,感情,行動決定などさまざまな基本機能を説明できる [ 乾敏郎,(2018)]」と述べています。

理化学研究所の脳型知能理論研究ユニットは「どんな神経回路も自由エネルギー原理に従う」題したプレスリリースを発表し、神経回路の電気的パターンの数学的記述がFEPの数理モデルと同等になることを明らかにしました。脳は神経回路の塊ですから、脳は自由エネルギー原理に従っていると捉えることに、特段の飛躍はないでしょう。

  • 脳は、過去の経験と学習をもとに生き残るために何をすべきかを予測している
  • 脳は現在の予測と新たな入力の誤差を最小化し続けることで,外部世界に適応することを実現している(予測誤差最小化)

というおおよそ二つの原理原則を展開することで、知覚,認知,運動機能,感情,行動決定などの心のあらゆる働きを統一的に説明できることが、学術的に明らかになりつつあります。

精神分析的臨床家J・ホームズが「心理療法は脳にどう作用するのかー精神分析と自由エネルギー原理の共鳴ー(岩崎学術出版社)」の中で、自由エネルギー原理の知見に照らして心理療法を意義の検証を試みたように、これまでの人間の心についての知(心理学・精神医学・社会学・文学・哲学・宗教・教育・文化など)を統一的に分析・配列することができる原点になるのではないかと、弊社は期待しています。

<FEP×人工知能>

先述した理化学研究所ユニットが脳型知能理論を研究していることや、京都大学教授である谷口忠大氏が「自由エネルギー原理と記号・言語創発ー集合的予測符号化から大規模言語モデルまでー(2023)」と題した論文を発表されていることに象徴されるように、FEPと人工知能には、その情報処理の類似性から深い関連があります。

いずれもベイズ推定(確率計算)により予測を生成していること、トップダウンとボトムアップの情報処理を通した誤差最小化による情報の最適化を行っていることなど類似の動作原理を有しており、相互の研究が相乗効果を生んできたという経緯があります。

弊社は、人間とAIへの理解を深め、人間とAIが相互に発展しながら共生する未来を実現するための原点となる理論として、FEPには可能性があると考えています。

新年を迎え、ますます注目されている自由エネルギー原理。

「人類の未来にもたらす影響は計り知れない」という確信は強まるばかりです。

令和7年2月7日 株式会社Lyapunov 冨永晃輝

最大の原点回帰「自由エネルギー原理」