リアプノフの安定性理論
弊社の会社名 Lyapunov(リアプノフ)は、ロシアの数学者Aleksandr Mikhailovich Lyapunov(1857-1918)に由来しています。Aleksandr Lyapunovは、数理物理学や確率論などの分野で多くの業績を残しました。
弊社は、Aleksandr Lyapunovの代表的な業績である、「リアプノフの安定性理論」のモチーフに共鳴し、社名の由来とすることにしました。
リアプノフの安定性理論は、数学と制御理論で使用される重要な概念で、特にシステムの安定性を評価するために使われます。
システムが安定であるというのは、外部からの小さな影響や初期条件のわずかな違いがあっても、システムが一定の状態に戻る性質を持っていることを意味します。例えば、振り子が下に垂れた状態は安定と言います。振り子を少し動かしても、自然に元の位置に戻るからです。一方で、山の頂上に二つの石が並んでいるとします。これらの石が雨風によって頂上から落ちた瞬間、その後、二つ石がまた山の頂上に自然に戻ることはまずありません。二つの石はバラバラに斜面を下っていき、多くの場合別々の場所で止まるでしょう。このように、何らかの拍子で状態が変化したら最後、どんな状態になるか予測がつかず、元に戻ることはまずないというような状態を不安定(系)といいます。
リアプノフの安定性理論は、このような安定性を評価するための数学的ツールです。具体的には、システムに対応する「エネルギーのような量(正定関数)」を想定した時に、そのシステムの時間変化に応じてこの正定関数がゼロに近づいていくことような、正定関数が存在する場合、システムは安定であるということができます。(線形システムでは逆が言えるが、非線形システムでは言えない)
安定系と不安定系を行き来する生命
生命は多数の要素が反応し合う非線形の複雑系ですが、システムとしての生命は安定系と不安定系の両方の性質を持っていなければなりません。複雑系科学の大家であるスチュアート・カウフマンは「自己組織化と進化の原理」の中で、「集団的に自己触媒作用を営む原始細胞から、あなたの体内、完全な生体に至るまでの、生命を持った系……。間違えなくこれらの系は、安定に振る舞い、恒常性を示し、突然変異を受けた際には優雅で小さな習性を見せるようなネットワークを有していなければならない。しかし、複雑な環境に対処しようとするのであれば、細胞や生体はその振る舞いがあまりに融通のきかないものであってもならない。」と述べています。
生命が環境の変化に対して、安定して振る舞う性質のことをホメオスタシスといいます。ホメオスタシスは生存の要とも言え得る性質で、環境が変化してももとに戻るシステムである安定系として振る舞うことを指します。一方で、スチュアート・カウフマンは「World Beyond Physics」の中で以下のようにも述べています。
「進化する生物圏はそのようにして、物理的に自らを構築して進化する。原始より上のレベルの際限ない非エルゴード的宇宙へと複雑さと多様性を増していく。心臓もそうやって出現した。我々は『生命力』を見つけたのかもしれない。それは非物理的な謎ではなく、事前言い当て不可能な生命現象の驚異という、また別のたぐいの謎なのだ。」
生命は、ただ安定しているのではなく、個体としては成長し、種としては進化するという時と共に変化していく性質を有しています。カウフマンは、自らを進化させ新たな自分を創り出す力を「生命力」と呼んでいます。このように生命には、時と共に変化していく「不安定系」としての性質もあるのです。
生命は、生きていくために環境の変化に対して安定系でありながら、命を繋いでいくために自らを変化させる不安定系としての性質も有しています。
私たち人間の心もまた、この安定系と不安定系の両方の性質を有しています。落ち着いた人間関係を実現するためには、日々起きる様々な出来事に乱されない安定した心を持っている必要があります。しかし、私たちの心は、日々成長していくという不安定系としての性質を有する必要があります。
その心がどのようなシステムで動いているのかを描き出し、どうすれば人生の転機となるような成長が生まれるかを導出しようとする弊社の「心の成長アセスメント」は、リアプノフの安定性理論がそのシステムの安定と変化の臨界点を描き出すように、「心の臨界点」を描き出すことであると弊社は考えております。
このように、一人一人の人格を捉え、そのより良い安定や成長の力になりたいという願いから、弊社はLyapunovという社名になりました。